素麺屋ブログ
2023/09/15 10:14
【お!いしい けんぶんろく】 Vol.21
メンコレ③/薬草を練り込んだ素麺の健康への期待
石井製麺所の“食材を練り込んだ手延べ麺開発”の一番のきっかけは、「しょうどしま長命草」を使った素麵でした。
召し上がってくださる方に、美味しさはもちろん、健康づくりにもお役立ていただける素麵を考えていたところ、小豆島の長命草生産者さんから「長命草を練り込んだ素麵ができないか」とご相談をいただき、石井製麺所が考える新しい麺の開発に繋がりました。
薬草ではありませんが、小豆島を代表するオリーブを使った素麵も、美味しさと食べやすさ、それに“健康価値の高い”食材であることを活かした手延べ素麵として、開発・販売してまいりました。
ご存じの通り、手延べ素麵は小麦粉と塩と水だけで製造をしています(必要に応じて食用油を表面に塗ります)。
「手延べ製法」は、そのシンプルな素材の特性を活かし、組み合わせて、美味しさを創り出す“究極の製法”(だと私は考えています)として受け継がれ、時に見直され、今日まで繋がっています。
白い素麵に食材・素材(食品粉末など)を混ぜてつくることは、これまで培ってきた製造方法そのままでは非常に難しくなることが多く、素材によっては柔らかくなり過ぎたり、途中で伸びすぎたり、逆に伸びなかったりと大きく製法に影響してしまいます。
石井製麺所では何度も失敗を繰り返し、食材を練り込んで美味しい手延べ麺に仕上げる独自製法を編みだすことができました。
もちろん、無添加、無着色、無香料のこだわりは大切にしています。
また、様々な手延べ麺にチャレンジすることで、必然的に各工程を見直すことになり、これまでの白い手延べ素麵のクオリティ向上に繋がったと感じています。
その甲斐あってか、現在、日本全国より、各地自慢の食材を練り込んだ素麵の製造依頼を頂戴するようになりました。
現在も独自の新麺開発に取り組みながら、独自性のある、新しい麺をお考えの皆さまのお役に立てればと精進しております。
今回は、「メンコレ」第3弾として、生地に薬草(健康に良いと考えられる食材)を練り込んだ素麺について調べてみました。
昔から、人々はいろいろな植物を薬として用いてきました。
何がどんな症状に効くのか試行錯誤を重ね、民間療法として伝承してきたのです。
漢方の用語に「医食同源」という言葉があります。
食べるものと薬になるものの源は同じ、という意味だそうです。
昔の人々が経験として薬用していた植物で、近年その健康への効果が改めてクローズアップされる、といったこともよくあるように思います。
そういった健康効果が大きく期待される植物を「薬草」ととらえ、それらを生地に練り込んだ素麺について、特徴的なものを調べてみましたので、今回もお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
※以下にご紹介する素麺は、2023年9月11日現在の当社調べになります。
ご紹介した地域以外でも同様の商品を扱っておられるかもしれませんのでご了承ください。
また、これ以外にもこんな食材を練り込んだ素麺がある、という情報をお持ちの方は、ぜひお知らせください。
<参考サイト>
・身近な生活にある薬用植物 医薬品の原料となった植物
https://www.eisai.co.jp/museum/herb/familiar/medicine.html
・医食同源とは?食事も薬も源は同じ!? 健康を維持するには毎日の食事から
https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/eat/?p=9795
【目次】
① 食べると長生きできる!?「長命草」の素麺
② 無病息災を願って食べたい「月桃」の素麺
③ 和ハーブの女王の異名を持つ「ヨモギ」の素麺
④ 漢方にも使われる!青と赤が鮮やかな「シソ」の素麺
⑤ 翌日には芽吹く生命力の強さ「明日葉」の素麺
⑥ 植物繊維が豊富!食べる「い草」の素麺
⑦ 薬草の栽培地でもある島原の「薬草」の素麺
⑧ 《美味しい素麺》しょうどしま長命草素麺 編
① 食べると長生きできる!?「長命草」の素麺
長命草は、「1株食べると、1日長生きする」と言われるほど高い栄養価を持つとされる、香川県小豆島の新しい健康食材。
四国、九州、沖縄などの海岸に自生する、セリ科の多年草です。
潮風が吹き付ける過酷な自然環境でもたくましく育つ塩生植物で、沖縄などでは古くから健康に良い野菜として食されてきました。
ポリフェノールや食物繊維を多く含み、ビタミンやミネラルもバランスよく含んでいます。
長命草には苦味がありますが、素麺にすることで食べやすく、手延べならではのツルッとした食感で美味しく召し上がっていただけます。
翡翠色で抹茶風味の中太麺で、温かいおだしともよく合います。
力を入れて取り組まれる与那国島や南さつま市でも、長命草を使った麺をつくられているそうです。
石井製麺所でも、他産地に負けない美味しい「長命草素麵」をつくり続けてまいります。
<参考サイト>
・しょうどしま長命草プロジェクト
https://shodoshima-choumeisou.com
② 無病息災を願って食べたい「月桃」の素麺
月桃(げっとう)は、沖縄や台湾などの亜熱帯地方に自生している多年草です。
沖縄では古くからその葉や種子・花などを薬草として活用してきました。
旧暦の12月8日には、一年の無病息災を祈願して月桃の葉で餅を包み、蒸して食べる習慣があるそうです。
蒸した際の残り湯は玄関や家の周りにまいて、家の中に邪気が入らないようにするお清めとして使うとのこと。
月桃はポリフェノールが豊富で、抗酸化作用や美肌効果などが期待され、ハーブティーや化粧品などにも使われています。
「げっとう食品」さんは、そんな月桃にほれこんで月桃の葉を練り込んだ素麺をつくっておられます。
オーナーが浦添市で運営されている沖縄そば店では、月桃入りのそばを食べたり、月桃入り素麺を購入したりできるようです。
※写真は製造中の『月桃そうめん』
<参考サイト>
・沖縄産ハーブティーで人気の月桃について!
https://okinawa-cho-sei.easy-myshop.jp/c-fpage?fp=column21
・月桃にとことんほれ込んだ社長のすばとそーみん
https://www.urasoenavi.jp/kankou/2015043000021/
・月桃を使った沖縄そば 麺屋ちばとぉーんどー(浦添市勢理客)
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1555983.html
③ 和ハーブの女王の異名を持つ「ヨモギ」の素麺
ヨモギは古くから日本で役立てられており、「和ハーブの女王」とも呼ばれます。
アジア・ヨーロッパ・アメリカなど世界中で生育し、その種類は250以上あるとも言われているそうです。
紫外線や潮風にさらされる海岸や荒れ地、森林など広く生息できる強い生命力があります。
栄養としては、骨粗しょう症を防ぐとされるビタミンK、抗酸化作用のあるビタミンEなどを豊富に含みます。
ヨモギを使った食べ物としては、春の風物詩である草餅がよく知られていますね。
他にも天ぷらやお茶など食用されるほか、入浴剤として、またお灸のもぐさなどにも使われてきました。
天然のヨモギを練り込んだ素麺が、奈良県三輪、長崎県島原、福島県南会津などでつくられています。
ヨモギ独特の香りや風味が味わえるそうです。
<参考サイト>
・【和ハーブ連載】ヨモギの効果とは?身近な薬草の知られざる力
https://www.yomeishu.co.jp/health/4159/
・三輪の翁 稲垣商店 よもぎそうめん
https://miwaokina.com/products/sousaku/yomogi.html
・のうち製麺 手延べ よもぎ素麺
https://nouchi-seimen.ocnk.net/product/16
・天領よもぎそうめん
https://www.naraya-soba.com/?pid=72380562
④ 漢方にも使われる!青と赤が鮮やかな「シソ」の素麺
シソは漢方にも使われる薬草です。
大きくは青ジソと赤ジソに分けられ、薬味やてんぷらなどで目にする機会が多いのは青ジソですが、漢方に使われるのは主に赤ジソだそうです。
発汗作用や解熱作用、胃液の分泌を良くして胃腸の働きを整える作用、魚介類による食中毒時の解毒・予防などが期待されるため、風邪症状や胃腸の不調などに良いとされる漢方薬に用いられているとのこと。
青ジソは抗菌作用が強いとされ、刺身のツマなどに用いられています。
素麵を食べる際には、薬味として使う方も多いのではないでしょうか。
そのシソを、素麵に練り込んでいるものもあるようです。
大分県大分市で大葉(シソ)の栽培や加工品生産などを手掛けておられる「植木農園」さんでは、青ジソの粉末を練り込んだ緑色の素麺や、梅とシソの粉末を練り込んだピンク色の素麺をつくっておられます。
徳島県徳島市では、徳島県産シソの葉を手摘みし天日で乾燥させ、粉にして生地に練り込んだピンク色をした素麺をつくっておられます。
<参考サイト>
・しそが漢方に用いられる理由。どんな漢方に配合されているかを解説
https://www.yuskin.co.jp/hadaiku/detail.html?pdid=100
・植木農園(大分県)の青じそ入 手延べ素麺は美しく、この上なくおいしいそうめん。強いコシが快感です。
https://kanzo.jp/archives/34648
・植木農園オンラインショップ
https://uekifarm.jp/shop/item.html#soumenao
・阿波紫蘇そうめん
https://gin-sato.jp/SHOP/4580280300497.html
⑤ 翌日には芽吹く生命力の強さ「明日葉」の素麺
明日葉は、独特の苦みを持つセリ科の多年草。
「今日新芽を摘んでも、翌日にはまた新しい芽が出てくる」と言われるほど生命力が強いことからその名がついたとされています。
別名「八丈草」とも言われ、八丈島や大島など伊豆諸島、房総半島、三浦半島、紀伊半島など暖かい太平洋沿岸部に自生している植物です。
古くから食用されており、青汁の原料としても有名ですね。
ミネラルやビタミンなどの栄養を豊富に含む健康野菜で、粉末などに加工されスイーツなどにも使われているそうです。
明日葉を練り込んだ素麺は、八丈島だけでなく、全国各地でつくられているようです。
岐阜県大垣では、明日葉を地域で苗から育てて粉末にし、練り込んで素麺をつくっておられます。
素麺発祥の地である奈良県三輪では、自社栽培の農薬不使用の明日葉を粉末にして練り込んだ素麺をつくっておられます。
翡翠の産地である新潟県糸魚川では、伊豆七島に自生する明日葉を練り込んで、翡翠のような美しい緑色の素麺をつくっておられます。
<参考サイト>
・八丈島の健康野菜あしたば
https://www.hachijo.gr.jp/specials/ashitaba/
・明日葉/アシタバ/あしたば:旬の時期と特徴
https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/ashitaba.htm
・八丈島の明日葉・くさや・島とうがらし
https://www.sp-market.biz/shopdetail/000000000589/
・明日葉そうめん
https://ogaki-tokusanhin.jp/product/product-52/
・明日葉入り手延べ三輪素麺
http://www.nishino-farm.com/ashitaba-order/soumenn.html
・明日葉入りひすい麺「姫の糸」
https://e-ee.jp/SHOP/KSHI19071.html
⑥ 植物繊維が豊富!食べる「い草」の素麺
い草は畳の原料として知られていますが、昔は薬草として使われていました。
江戸時代の文献に、い草を細かくすりおろし煎じて飲むことで、感染による炎症を抑えるなどの効果があると記述されているそうです。
近年、食用い草の栽培が進んでおり、食物繊維などが豊富なことから「和のスーパーフード」として注目されています。
健康食品やスイーツ、また入浴剤などが開発されているとのこと。
日本一のい草の産地・熊本県八代市にある「イナダ有限会社」さんは、食用い草の栽培から販売まで手掛けておられます。
い草の粉末を練り込んだ素麺は、レストランや病院、学校の給食などにも採用されているそうです。
ほんのり甘く、つるつる、もちもちとした食感で、ゆで伸びしにくいとのこと。
こちらの会社では、い草を使ったお茶やアイスなどもつくっておられます。
※写真はイメージです。写真はPhoto AC「い草畑」より
<参考サイト>
・意外と知らない畳の話 昔は薬草だったイグサのアロマセラピー効果
・【イナダ有限会社】栄養が凄いと話題の”食べるイ草”を専門店で堪能してきた
https://8246renraku.net/archives/inada-igusa.html
・もちもち食感のこだわり手延べ『藺草麺 細麺』
https://e-igusa.com/SHOP/A13044.html
⑦ 薬草の栽培地でもある島原の「薬草」の素麺
長崎県の島原半島には、日本三大薬園跡のひとつである国指定史跡「旧島原藩薬園跡」があり、現在でも島原では薬草を栽培しているそうです。
そんな薬草を練り込んだ素麺がつくられています。
地元の島原農業高校の生徒が、もっと手軽に、年間を通じて手延べ素麺を食べてほしいとの想いで、「めんの山一」さんと産学連携で共同開発されたのが、「薬草麺のスープカレーそうめん」という商品。
麺には、4種の島原薬草(オオバコ・ウイキョウ・ナズナ・タンポポ)が練り込まれています。
コラーゲン入りカレースープと組み合わせ、片手鍋で3分ゆでれば出来上がりという簡単調理で食べられるそうです。
※写真は「長崎県産品データベース」掲載の「薬草麺のスープカレーそうめんNYK-02」より引用
<参考サイト>
・島原手延べ薬草麺のスープカレーそうめん
https://www.yamaichi-shop.jp/SHOP/NYK-02.html
・薬草麺のスープカレーそうめんNYK-02
⑧ 《美味しい素麺》しょうどしま長命草素麺 編
きっかけは、小豆島長命草の会さんから「長命草の粉末を使って、手延べ素麵をつくれないか」でした。
小豆島の農業は塩害との闘い…でもあるそうで、塩に強い農産物があればと、香川大学農学部の先生方と共同で研究をされてきたそうです。
何種類かの野菜や植物が候補に挙げられましたが、「長命草」を選ばれたそうです。
第一に、塩害に強い…どころか、塩を吸って元気になる植物ですから島嶼部である小豆島にはぴったりと言える植物です。
第二に、健康に良い…特に高血糖の方によいと言われているそうで、香川県の(当時)ワースト記録と言われる全国糖尿病患者数を下げるためにも、その効果に注目が集まったそうです。ちなみに、香川県では子供の糖尿病予備群化も深刻で、大人も子供も食べやすく広まりやすい食べ物が求められていたそうで、長命草を練り込んだ麺はまさにぴったりと言える食べ物だと考えます。
第三に、無農薬で栽培できること。食べる方の健康面でも大きく影響が考えられますが、なにより、高齢の農家さんにとって農薬を使わずに栽培できる長命草は、栽培される方の健康にも優しいと言えます。また、農薬を使用しないことから、その分のコストも安くなり安価に提供できることもメリットとなります。
第四に、島でたくさん出る「醤油粕」を活用して、小豆島独自の長命草栽培をおこなえる点です。
「醤油粕」は島にたくさんある醤油製造工場から毎日のように大量に出てきますが、醤油を搾った後の粕は産業廃棄物として処理されていたそうです。しかし、醤油粕に含まれる栄養素が長命草にぴったりで、より栄養価が高まる事も研究で分かってきたそうです。
地域で出る醤油粕を使用して、長命草を育て、それを島の特産品である手延べ素麵に仕上げることは、まさに小豆島ならではのものと言えます。
こうした理由から石井製麺所での「長命草素麵」づくりがはじまり、試行錯誤の上、納得いく仕上がりになったと自負しています。
少しずつですが認知度も高まり、今では人気の素麵となりました。
ぜひ一度、綺麗な翡翠色をした抹茶のような爽やかな風味の「長命草そうめん」を味わってみてください。
《石井製麺所オンラインショップ》 https://141seimen.thebase.in/
《手延べしょうどしま長命草素麺》 https://141seimen.thebase.in/items/29007893
『お!いしい けんぶんろく』について
本ブログでは、色々な産地を調べたり、食べ方を探求したり、将来的には実際に産地に行って交流を深めたり…そんなことができれば良いなと考えています。まずは勉強からと言うことで、小豆島もそのひとつですが、日本の素麺や麺類について調べながら、様々な素麺の情報を発信できれば良いなと考えています。もし、間違いなどあれば、ご指摘ください。たくさんの方の“素麺のデータベース”になればと考えています。
色々な情報を紐解きながら…なので、間違いや勘違い、伝承だと色々な解釈があったりすると思いますので、優しい気持ちで見守っていただき、一緒に学べる場にできれば幸いです。