素麺屋ブログ
2023/06/16 22:33
【お!いしい けんぶんろく】 Vol.14(番外編)
『第3回 全国そうめんサミット2023 in小豆島』レポート
6月3日と4日の2日間、『第3回 全国そうめんサミット2023 in小豆島』が開催されました。
台風の接近で、サミットまで気が気でない1週間でしたが、本番は素晴らしいお天気、そうめんに相応しい晴れ空となりました。
今回はそうめんサミットのレポートをお届けしたいと思います。
【1日目】
スタートは『日本三大そうめん食べ比べ』から。
兵庫の播州そうめん、奈良の三輪そうめん、そして香川の小豆島そうめん。
それぞれのそうめんを食べたことはありますが、一度に3種類のそうめんを食べるのは初めての体験です。
まずは見た目の比較。
器に盛られたそうめんを見比べると、三輪そうめんが一番細いことがよく分かります。
播州そうめんと小豆島そうめんの違いは僅かですが、若干、小豆島そうめんが太いような気がします。
手延べ製法の性質上、太さに多少のバラつきが生じるので個体差はあると思いますが、見た目だけでも産地を判断できそうでした。
太さが異なれば、食感が変わります。
三輪そうめんは細いので、軽い食感になりそうですが、意外にも食べ応えがある印象でした。
これはおそらく、他のそうめんと同じ感覚で箸に取ると、細い分、より多くの本数のそうめんを取ることになるからかもしれません。
播州そうめんは、はっきりとコシが強いと感じました。
そうめんの一本、一本に存在感があります。気持ちよくのどを通る感じで、噛んだ時にプチっと歯切れのよい感覚も特徴でしょうか。
小豆島そうめんは、こればかりは食べ慣れているところもありますが、ツルツルっと軽やかなのど越しの良さを感じます。
違いを感じたのは歯ごたえ。
芯というほどはっきりしたものではないものの、最初はやわらかく、最後にプチっと切れるような、極端に言えば2段階の噛み応えでした。
そして、味の違い。
これが今回、一番分かりやすい違いでした。
小豆島そうめんは、言葉で表現するのは難しいですが、口に入れたとき、のどを通るときに感じる「風味」があります。
これはおそらく、使っている油が「ごま油」であることが理由だと思われます。
味に影響を及ぼすものとして原材料の違いは大きいはずで、「ごま油」の使用は小豆島ならではの特徴です。
はっきりと断定できないのは、その風味が「ごまの風味」だと言い切れないからです。
(私の舌が未熟だという可能性もありますが…)ごまの味がするとは言えないものの、鼻に抜けて感じられる風味があることは間違いありません。
これが、小豆島の島民にとっての「そうめんの味」なのだと改めて実感しました。
食べ比べてみると、たかがそうめん、されどそうめん、その美味しさには違いがありました。
「私は播州が好き」「私は三輪が一番」「やっぱり小豆島」そんな声が聞こえてくるのも当然だと思います。
繊細な味覚センサーは、その土地の気候、製造環境、職人さん独自のこだわりといった数値化できない微細な違いを感じ取っているのかもしれません。
次に向かったのは『式典・鑑評会結果発表・表彰式』、および『公開討論会』。
今回のサミットでは、「そうめんは、宇宙だ!」と題して、「そうめんを食す。そうめんを語る。そうめんを学ぶ。」ことを掲げています。
これが本サミットのメインイベントです。
サミット=首脳会議の名の通り、全国からそうめんおよび乾麺に関わる組合、企業の代表者や生産者の方々が集まりました。
業界初の試みとして、『第1回 全国そうめん鑑評会』が実施され、その結果発表と表彰式が行われました。
「業界の技術研鑽・品質向上につなげるだけでなく、縮小していくそうめん市場を上向きにし、手延べ文化の維持継承、そうめんに対する消費者の認識・心理的価値を高め、そうめん文化全体を向上させる」ことを目的としています。
全国から全16作品の応募があり、同条件のもと食味に関するブラインド審査の結果、金賞6作品、入賞10作品が選ばれました。
地場産の小麦粉をはじめとする国産原料を使用したそうめんや、食塩や油を使わないそうめんが出品されていました。
小麦粉以外の原料を練り込むそうめんは、今回の応募条件から除外されていたので、シンプルに、小麦粉の味や、製法や技術が評価されやすい鑑評会になったのではないでしょうか。
審査員の方々のコメントを聞くと、どれも美味しく、甲乙をつけるのが難しかったようです。
しかし、5項目(味/香り/コシ/のどごし/色つや)の評価基準で点数化された審査だったため、やはり金賞作品には、金賞たる理由があるのだと思います。
可能であれば、各作品について、具体的な感想を聞きたかったというのが本音ですね。
公開討論会では、審査員の方々と業界団体の代表者の方々が登壇され、鑑評会の結果も踏まえて議論が行われました。
生産者、販売者、飲食店、それぞれの立場から、そうめんの未来を考えます。
そうめんの生産量が減少している、という業界全体の課題。
原因はいくつかあるのでしょうが、食生活の多様化の影響が言及されていました。
日本三大そうめんを食べ比べただけでも分かったように、そうめんには個性があります。
最近は、都内にそうめん専門店が増えており、「そうめんの食べ方」が注目されているようで、料理に合わせて最適なそうめんを選ぶことが大事とのこと。
私も恵比寿にある専門店『そそそ』を訪ねたことがありますが、「明太クリームそうめん」といったメニューが人気を博しているそうです。
飲食店においては、のびにくさも重要になります。
そこで提案されていたのは、「古(ひね)」と呼ばれる熟成麺の活用です。
播州そうめんでは特に、古物(ひねもの)として、ワンランク上のそうめんとして扱われています。
冬に製造したそうめんを、ひと夏(梅雨の時期)の間、蔵の中で寝かせたものを指します。
熟成したそうめんはコシが強くなり、茹でのびもしにくくなるという特徴があります。
一方で、新しいそうめんにも、新しいそうめんらしい良さがあり、やはり原料由来の風味が際立つのは新しい麺とのこと。
これは弊社でも大事にしている考え方になります。
ごま油を使用していたり、その風味が特徴である小豆島そうめんにとっては、できたての新しいそうめんを食べるのが合っていると思います。
そのため、小豆島では古物(ひねもの)は一般的ではないですが、麺のコシが強くなる現象は有効活用できると考えています。
たとえば、練り込み系のそうめんは、その原料によってはコシが弱くなることがあるようです。
そんなとき、数か月の熟成を経ることでコシを強くできる可能性も考えられますね。
後継者不足の問題にも話が及びました。
跡を継ぐ若い人がいないことは、産地を問わない共通の課題です。
小豆島そうめんの場合、平成初期には200件を超える製麺所がありましたが、今では60件ほどになっているそうです。(小豆島手延素麺協同組合の組合員数)
手延べそうめんは、その製法上、長時間作業が必要とされます。
弊社の場合、早朝の3時30分から、およそ15~16時間といったところでしょうか。
これは小麦粉の性質を最大限に生かし、“寝かせては延ばす”を繰り返して麺にしているからです。
美味しさのためには妥協できない、ひとつひとつの工程があります。
そうめん屋単独では、これ以上の作業時間、工程の短縮化は難しいのが現状です。
しかし、他産地では、小麦粉など原料メーカーや製麺機械メーカーとの「協同での技術発展」が既に行われているそうです。
製麺所が要望を出し、新しい小麦粉や機械が開発され、製麺所が実験する。その繰り返しで、作業時間が12時間まで短縮されているとのこと。
会場でお会いした機械メーカーの方から、「小麦粉を練る機械も進化しており、練り方によってその後の熟成時間を短縮できる」という話もお聞きしました。
小豆島のそうめん屋は、他産地と比較しても、1軒あたりの規模が小さいそうです。
(もちろん、規模だけが理由にはなりませんが)弊社もいわゆる家族経営(両親と私)の1社ですので、長年の製麺経験による経験値と技術はあっても、科学的な知見が不足しているのは間違いありません。
自社だけでできることに、限界があるのは明らかです。
討論会を聞きながら、協働での技術発展が不可欠だという理解とともに、その主導はそうめん屋(生産者)でなければならないと強く思いました。
そうめんを深く知り、料理へ生かすことも大切ですが、たとえば「パスタ風にアレンジしたそうめん」があったとして、それはどこまでいっても「~風」でしかなく、パスタには敵わないものだと思います。
本当に必要なのは、他の麺類に寄せていくような、そうめんのアレンジに留まることなく、そうめんそのものの進化と呼べるような、新しいそうめんの開発だと考えています。
生産者にとっても、もちろん食べる人にとっても新しい、画期的なそうめん。
業界が活気づくような、斬新な切り口のそうめん。
奇をてらうのではなく、しかし「おもしろい!」と感じていただける、そんなそうめんを創りたい。
幸いなことに、弊社では新商品やOEM商品の開発にあたって、製粉会社さんや地元研究機関の専門家の方にご協力をいただいております。
「協同」をこれから必要不可欠になる手段と捉えて、主体的に動く。討論会を踏まえた、自分なりの結論です。
1日目の最後は懇親会です。
遅れての参加になってしまい、会場に入ると宴もたけなわでした。近くの席には島の同業者の皆様、同じテーブルには素麺組合の皆様。
実は、素麺組合の、特に生産者の方々とお話するのは、これが初めてでした。
素麺組合には若い組合員で青年部が組織されているそうです。
小豆島において、組合員ではない、いわゆる独立した弊社のようなそうめん屋は、通称アウトサイダーと呼ばれています。
言葉だけ聞くと悪い意味に受け取られるかもしれませんが、あまり深い意味はないはずです(笑)。
「立場や所属の垣根を取り払って、技術交流ができれば…」若手の生産者としてのつながりが、これからの小豆島そうめんにとってプラスになると考えています。
また、ツイッターでフォローをいただきました、そうめん研究家のソーメン二郎さんと、初めてご挨拶をさせていただきました!
ソーメン二郎さん、業界で知らない人はいないでしょうし、そうめんのPRでテレビや雑誌でも大活躍されております。
そうめん発祥の地、奈良県桜井市のご出身、三輪そうめんの製麺所の家系のお生まれで、「実家に帰省するたび、製麺所の廃業を目の当たりに」されたことで、そうめん業界に対する危機感を抱いたそうです。
最近では「クラフトソーメン束の会」を主宰され、全国の小規模な手延べそうめん製造所のつくるそうめんにスポットライトを当てる活動をされています。
いつか、ソーメン二郎さんにも注目してもらえる、新作そうめんを創りたいです。
参考サイト:https://www.mizkan.co.jp/craft-somen/
2日目に続きます。。。
《石井製麺所オンラインショップ》 https://141seimen.thebase.in/
『お!いしい けんぶんろく』について
本ブログでは、色々な産地を調べたり、食べ方を探求したり、将来的には実際に産地に行って交流を深めたり…そんなことができれば良いなと考えています。まずは勉強からと言うことで、小豆島もそのひとつですが、日本の素麺や麺類について調べながら、様々な素麺の情報を発信できれば良いなと考えています。もし、間違いなどあれば、ご指摘ください。たくさんの方の“素麺のデータベース”になればと考えています。
色々な情報を紐解きながら…なので、間違いや勘違い、伝承だと色々な解釈があったりすると思いますので、優しい気持ちで見守っていただき、一緒に学べる場にできれば幸いです。